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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)5号 判決 1973年8月31日

控訴人(原告) 山京商事株式会社

被控訴人(被告) 神田税務署長

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人の昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が同四二年四月二八日付でした更正および過少申告加算税賦課決定は課税所得金額二、〇九二、〇三三円をこえる限度において取り消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを十分し、その九を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人の昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度の法人税について、被控訴人が同四二年四月二八日付でした更正および過少申告加算税賦課決定のうち、課税所得金額金一、〇九九、五三三円、法人税額金一九四、六五〇円、過少申告加算税三、七〇〇円をこえる部分を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の陳述は、控訴人において、原判決の事実摘示中第二の四1のうち「原告の仲介した本件(ウ)の売買の当事者、対象不動産、契約成立日、代金額、仲介手数料の支払人、支払日、支払金額の各点についての被告の主張事実は認める。」との部分を左記のように補正したほか原判決事実摘示のとおりであるから、その記載を引用する。

控訴人は、次のように述べた。

「被控訴人が本件(ウ)の売買契約日と主張する昭和四〇年一二月二二日には、本件(ウ)の不動産に関する遺産分割協議も成立していなかつたため、売主となるべき者が確定せず、右売買契約書(乙第一一号証)には売主が表示されておらず「相続人代理橋本寛司」となつており、また売買対象不動産も、控訴人が仲介したのは、大田区雪ケ谷六七九番地三所在家屋番号一六七一番であつたが、本件事業年度終了後である昭和四一年六月九日に同所家屋番号六七九番六の一の建物が売買され、控訴人が仲介した物件の売買は履行されるに至らなかつたものである。」。

当事者双方の証拠の提出、援用および認否は、控訴人において、控訴人代表者村松喜平(控訴審)の尋問の結果を援用し、乙第二七号証は不知と述べ、被控訴人において、乙第二七号証を提出したほか、原判決中の証拠の摘示と同一であるから、その記載を引用する。

理由

一、当事者間に争いのない事実

請求の原因1、2の事実(本件処分および審査請求の経緯)および控訴人に本件事業年度分として一、〇九九、五三三円の所得があつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、争点に対する判断

(一)  本件の争点は、まず、控訴人に、右所得のほかに、被控訴人の主張する本件事業年度分の所得一、〇三七、五〇〇円があつたか否かということであり、これは、(1)控訴人に、本件事業年度中に、被控訴人の主張する仲介手数料の収入計上洩れ一、四七七、五〇〇円があつたか否かということと、(2)控訴人に、本件事業年度中に、被控訴人の主張する歩合給(未払手数料)認定損四四〇、〇〇〇円があつたか否かということ、この二点に帰するので、順次これらの点について判断する。

(1)  仲介手数料の収入計上洩れ一、四七七、五〇〇円の存否およびその計上時期について

当裁判所も、原判決判示のとおり、控訴人の本件事業年度の収益として、仲介手数料一、四七七、五〇〇円を計上すべきものとした被控訴人の主張は、仲介手数料一、四三二、五〇〇円の限度において理由があると解するものであり、その理由は、原判決の一五丁表九行目から同一七丁表二行目までを後記aのとおり、また、原判決二三丁表二行目ないし八行目を後記bのとおりそれぞれ訂正するほか、原判決と同一であるので、これを引用する(ただし、原判決一八丁表五行目の証人渡井萬の証言、同二〇丁裏一一行目の乙第二〇号証、同二二丁表一一行目の乙第二五号証の一、二のそれぞれのあとに、原告代表者本人尋問の結果(控訴審)を挿入し、また、原判決一八丁裏一〇行目原告代表者本人尋問の結果のあとに(原審)を挿入する。)。

a 「1、法人税法上、益金に計上されるのは、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引にかかる当該事業年度の収益とすると定められているが(同法二二条二項)、ある収益をどの事業年度に計上すべきかについて、法人税法は、特例について定めているほかは(同法六二条ないし六四条)、原則的な基準について同法自体の中に明文の規定をおかず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算するとしているにとどまる(同法二二条四項。同項は、昭和四二年法律第二一号により追加されたもので、同項は本件には適用されないが、その趣旨は本件においても同様に解することができる。以下同じ。)。そして、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によれば、ある事業年度内における企業活動の成果である収益は、その実現があつたときの属する事業年度に計上すべきであるとされている。しかして、収益の実現に関しては、たな卸資産の販売による収益の帰属の時期については引渡基準、また、請負による収益の帰属の時期については物の引渡を要する請負契約にあつては引渡基準、物の引渡を要しない請負契約にあつては工事完成基準等が樹立されており、これらの場合代金を受領していなくても当期において引渡ないし工事をすでに完了しておれば、当該企業のなすべき給付の履行が終りその対価たる代金債権に右給付の価値が転化しているので(換言すれば、収益が実現しているので)、これを収益に計上すべきものと解されているのである。すなわち、期間収益を正確に算出するために、収益が具体化・顕在化し、社会通念上資産発生と認められるときにこれを計上すべきものとされているのである。これに反し、右の場合現金の収受があるまでこれを収益に計上しないとすれば、その事業年度内における企業活動の成果の反映である期間収益を正確に算出することにはならないから、かような処理は、たんに企業会計においても、法人税法においても妥当しないものと考える(最高裁三小廷昭和四六年一一月九日判決、民集二五巻八号一一二〇頁参照)。

2、そこで、原告のような宅地建物取引業者の仲介手数料をどの時点において計上すべきであるかを考えるに、宅地建物取引業者の仲介手数料に関しては、その収益の計上基準として確立されているものは見当らないが、右1に説示した理はそのまま仲介手数料の収益の取扱いについても妥当するものということができる。

一般に宅地建物取引業者は、不動産取引の仲介をすると、特別の事情のないかぎり、商事仲立に関する商法五五〇条一項を類推適用して、仲介の成功したとき、すなわち、当事者間に仲介にかかる不動産取引が有効に成立したときに、仲介手数料請求権を取得するものである。そして、右手数料の額は、これについて宅地建物取引業法一七条の限度内で約定があれば、この約定に従つてきめられることになる。したがつて、宅地建物取引業者の仲介手数料請求権は、仲介に必要な役務の提供があり、仲介にかかる契約が有効に成立し、かつ、仲介手数料の額が具体的に約定されれば、特別な事由のない限り、その約定日の属する事業年度の収益としてこれを計上すべきものである。すなわち、仲介人の役務の提供が完了し、これに基づき仲介手数料の額が合意され具体的請求権が確定的に発生し、同額の積極財産が生じた以上、収益の実現があつたというべきである。仲介手数料請求権の弁済期を基準として計上時期をきめることは、たな卸資産の割賦販売や延払条件付販売にかかる収入金等のように企業経理の健全性を特に考慮すべき要請から計上時期について特別の定めのある場合(法人税法六五条、六六条)に該当しないかぎり相当でなく、ましてや現金の支払いのあるまで収益に計上しないというのは合理性を欠くものである。」。

b 「そして、前掲証拠により、本件(ウ)売買の代金は三、一五〇、〇〇〇円であつたと認められ、右売買契約の成立時に、原告は売主橋本らに対し前記報酬規定の最高額であることが計算上明らかな一四〇、〇〇〇円(ただし、一〇、〇〇〇円未満は切捨て)の仲介手数料請求権を取得したということができる。

原告は本件(ウ)の売買契約日と主張する昭和四〇年一二月二二日には売主が確定しておらず、また、本件の仲介物件と売買の成立した物件とは異なつており、結局本件の仲介は成立していない旨主張するが、原本の存在および成立に争いのない乙第一一号証(売買契約書)によると、契約書末尾の売主欄には売主の氏名は表示されていないが、同契約書の冒頭の記載に徴して物件の売主はその相続人である橋本寛司ほか三名であることが十分に特定しており、また、右乙第一一号証の物件の表示と成立に争いのない乙第一三ないし一五号証(登記簿謄本)の記載にはそごが見られるが、前記認定のとおり本件(ウ)の物件(もつとも、(ウ)の物件は、正確には、成立に争いのない甲第一号証、右乙第一三ないし第一五号証に照して、東京都大田区雪ケ谷町六七九番の三および同所六七九番の六の宅地ならびに同六七九番の六地上家屋番号六七九の六の一の家屋であると認められる)について原告が仲介し、その仲介に基づき売買が成立していることが認められるから、原告の右主張はいずれも失当というほかない。」。

(2)  歩合給債務四四〇、〇〇〇円の存否およびその計上時期について

1、法人税法上、損金に計上される額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の原価、費用および損失の額とすると定められているが(同法二二条三項)、ある原価、費用および損失の額をどの事業年度に計上すべきかについては、益金と同様に、法人税法は、特例について定めているほかは(同法六二条ないし六四条)、原則的な基準について同法自体の中に明文の規定をおかず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算するとしているにとどまる(同法二二条四項)。そして、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準としては、原価については、それが収益と個別に対応するものであるので、原則として、収益との個別対応の原則(いわゆる費用収益対応の原則)が採られており、費用および損失については、販売直接費のように収益と個別に対応するものを除いて、原則として、総体対応の原則(いわゆる期間対応の原則)が採られているといえる。

2、そこで、控訴人の本件外務員歩合給債務が、どの基準の適用を受けてどの事業年度に帰属するものであるのかを検討する。

法人税法二二条三項一号にいう売上原価、完成工事原価その他これに準ずる原価とは、商業の場合には、期首商品たな卸高と当期商品仕入高の合計額から期末商品たな卸高を控除したものといい、また、製造工業の場合には、期首製品たな卸高と当期製品製造原価の合計額から期末製品たな卸高を控除したものをいうものである。換言すれば、当該納税義務者が相手方から受取る代金その他の収益の対価として相手方に給付する資産を取得するために直接に支出した額を「原価」とするのである。

しかして、本件の如き宅地建物取引業者の外務員に支払われる具体的な取引ごとに定まる歩合給債務は、販売商品や製品の原価とは異なるが、具体的な不動産売買に際し仲介人である宅地建物取引業者が役務を提供し仲介料請求権を取得するのに伴つて負担することになるし、また実質的には当該取引仲介のための外務員の労務が仲介という役務の一部を構成しているので、右の原価に準ずるものとして扱うのを相当とする。従つていわゆる費用収益対応の原則により、当該収益を計上する年度に右歩合給債務を計上するのが相当であるといえる。

3、控訴人代表者村松喜平の本人尋問の結果(原審および控訴審)、証人北沢東洋男、同長谷川敏雄の各証言を総合すると(ただし、一部争いのない事実を含む)、控訴人においては、本件事業年度当時は、外務員が不動産取引の仲介業務に従事したことにより、不動産取引が成立した場合には、当該外務員に対し歩合給(外交報酬)として仲介手数料金額に応じてその三割ないし五割の金員を支給する旨定めており、仲介手数料の金額がきまつた際に外務員に対する歩合給が右範囲内で具体的にきめられており、そして、原則として依頼者から控訴人に仲介手数料が支払われた日の属する月末に外務員に右歩合給が支払われていたことが認められ、具体的には、本件(ア)売買の仲介については、前記認定のとおり仲介手数料の金額の約定が成立した昭和四一年三月末までの間に、北沢東洋男および長谷川敏雄に対し各一五〇、〇〇〇円、白石孝に対し二〇、〇〇〇円、橋本栄三に対し五〇、〇〇〇円の各歩合給を支給する債務が確定し、昭和四一年六月二七日に右北沢および長谷川に対し各一五〇、〇〇〇円を、同月一〇日に右白石に対し二〇、〇〇〇円を、右橋本に対し五〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つたこと、本件(ウ)売買の仲介については、前記認定のとおり仲介手数料の金額の約定が成立した昭和四〇年一二月二二日に、右北沢に対し七〇、〇〇〇円の歩合給を支給する債務が確定し、昭和四一年六月二七日に同人に右歩合給を支払つたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、控訴人の外務員に支払うべき歩合給債務は、それが現実に支払われたときではなく、仲介手数料の金額の約定が成立した際に同時に具体的に確定したということができ、それは控訴人の取得する収益である仲介手数料と対応するものであるので、仲介手数料が収益として計上される事業年度に対応して損金に計上されるべきものと解される。

4、ところで、控訴人は、右のような外務員に対する歩合給などの費用は、控訴人が依頼者から現実に受領した仲介手数料によつて確定するため、権利確定主義による場合には、費用収益対応の原則に反する結果になるから、費用、収益ともに現金主義によるべきである旨主張する。しかし、外務員に対する歩合給は、前認定のとおり、依頼者から現実に仲介手数料を受領してはじめて確定するものではなく、仲介手数料の金額の確定に伴なつて確定するものであるから、控訴人の右主張は前提事実の認められない失当なものというほかない。

(3)  以上のとおり、控訴人の本件事業年度の益金としては、被控訴人の主張額より四五、〇〇〇円少ない未収の仲介手数料一、四三二、五〇〇円を計上すべきことが明らかであり、また、これに対応する控訴人の本件事業年度の損金としては、歩合給債務四四〇、〇〇〇円を計上すべきことが明らかであるから、結局控訴人の右仲介手数料(益金)および歩合給(損金)を差引いた所得は九九二、五〇〇円となる。

それで、本件更正は、当事者間に争いのない一、〇九九、五三三円と右九九二、五〇〇円の合計額二、〇九二、〇三三円をこえる部分を違法として取り消すべきである。

(二)  つぎに、本件過少申告加算税賦課決定の適否について、判断する。

さきに判断したとおり本件更正の一部が取消しを免れない以上、この部分に対応する右賦課決定の一部を取消すべきことは当然であるが、右以外の分については右賦課決定は相当であり、控訴人の主張は失当である。この点の詳細は、原判決二八丁裏二行目以下に次のとおり挿入するほか、原判決の理由(原判決二七丁表一行目から二八丁裏二行目まで記載のとおりであるから、これを引用する。

「また、証人岡利彦の証言および原告代表者の本人尋問の結果(控訴審)によると、原告は本件の仲介手数料の収入や歩合給の支払いを故意に計上洩れとしたものではなく、現実に仲介手数料を受領しまた現実に歩合給を支払つた翌朝にいずれもこれを計上していたことが認められるのであるが、さきに述べたとおり、かような現金主義による経理は、期間損益の計算方法として一般に公正妥当な会計処理の基準として認められているものでないばかりか合理的なものともいうことができず、このことと前認定のような本件事業年度の申告に至る経過を合せて考えると、控訴人の本件過少申告がやむをえないものであつたとはいえず、従つて本件が過少申告加算税を免れうる「正当な理由」がある場合に当たるとすることはできない。」

(三)  以上のとおり、控訴人が本件(ア)、(イ)および(ウ)の売買についてその各仲介依頼者らから支払いを受けるべき未収の仲介手数料のうち、一、〇三七、五〇〇円は本件事業年度における益金に加えるべきであり、また控訴人が右仲介に伴ない外務員に支払うべき歩合給四四〇、〇〇〇円は本件事業年度における損金に加えるべきであるから、本件更正および過少申告加算税賦課決定は、当事者間に争いのない一、〇九九、五三三円と右差額の九九二、五〇〇円の合計額二、〇九二、〇三三円をこえる部分については違法として取消すべきであるが、その余は適法であり、その取消しを求める控訴人の請求は失当というべきである。

それで、本件請求の一部は理由があるがその余は失当といわざるをえず、これと異なる原判決は一部取消しを免れず、本件控訴は右限度において理由がある。よつて訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、九二条、八九条を各適用して、主文のように判決する。

(裁判官 伊藤利夫 吉江清景 山田二郎)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 原告

1 原告の昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度の法人税について、被告が同四二年四月二八日付でした更正および過少申告加算税賦課決定のうち、課税所得金額一〇九万九五三三円、法人税額一九万四六五〇円、過少申告加算税三七〇〇円をこえる部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二 被告

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一 原告の請求原因

1 原告は、宅地建物取引業者であるが、昭和四一年七月三一日原告の昭和四〇年六月一日から同四一年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、課税所得金額八五万八七六六円、税額一一万九九〇〇円との確定申告をしたところ、被告は、同四二年四月二八日付で、課税所得金額を二一三万七〇三三円、税額を五一万六二七〇円とする更正(以下「本件更正」という。)をしたうえ、原告に対し過少申告加算税として一万九八〇〇円を賦課する旨の決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

2 そこで、原告は、昭和四二年五月二六日東京国税局長に対し、本件更正および本件賦課決定(以下両処分を併せて「本件処分」という。)について審査請求をしたところ、同年一一月二九日右審査請求を棄却する旨の通知をうけた。

3 しかし、本件処分における課税所得金額算出根拠のうち、申告額に加算された、仲介手数料収入計上もれ二二七万七五〇〇円中の別紙物件目録記載の物件に関する一四七万七五〇〇円、および減算された未払手数料認定損八四万円中の右物件に関する四四万円は、いずれも本件事業年度の益金ないし損金とはならないものであるから、本件処分は、右の限度において違法である。

4 よつて、原告は、被告に対し、本件処分のうち、右の手数料収入計上もれと認定された一四七万七五〇〇円から、右の未払手数料認定損と認定された四四万円を差し引いた所得金額一〇三万七五〇〇円の部分(所得金額一〇九万九五三三円、法人税額一九万四六五〇円を超える部分)および右所得金額に対応する過少申告加算税中一万六一〇〇円の部分(同税額三七〇〇円を超える部分)の各取消しを求める。

二 請求原因に対する被告の認否

請求原因1、2の各事実および同3のうち、本件処分の所得金額の中に原告主張の手数料収入計上もれおよび未払手数料認定損が含まれていることは認めるが、その余の事実は争う。

三 被告の抗弁

1 原告の本件事業年度分所得には、原告において争わない一〇九万九五三三円のほかに、次の算出根拠に基づく一〇三万七五〇〇円の所得がある。

(一) まず、税法上、大量回帰的に生起する租税関係を適正公平に処理するために、収益および費用の認識基準としていわゆる「権利確定主義」がとられているところ、宅地建物取引業者のうける報酬(仲介手数料)は、宅地建物の売買、交換または貸借の代理、媒介に関するものであるから、通常、売買の相手方の誘引にはじまり、売買契約の完結に至るまで処理することによつて、報酬請求権が確定するものというべきである。したがつて、本件の仲介手数料を収益として計上すべき時期は、特約の存しない限り、その請求権が確定する当該売買契約成立の時である。

また、宅地建物取引業者の支払うべき費用である本件の未払手数料も、義務の確定した時点において損金として計上されるべきこととなる。

(二) そこで、本件において争いのある収益および費用についてこれをみると、次のとおりである。

(1) 仲介手数料収入計上もれ一四七万七五〇〇円

(ア) 渡井清に対する未収手数料三二万二五〇〇円および茅ケ崎シーサイド・パレス株式会社(以下「シーサイド・パレス」という。)に対する未収手数料三四万五〇〇〇円

原告の仲介により、売主渡井と買主シーサイド・パレスとの間において昭和四一年一月二五日、別紙物件目録記載のA土地を一九五〇万円で売却する旨の契約(以下「本件(ア)売買」という。)が成立したため、原告は、特段の定めのない限り宅地建物取引業法に基づき、建設大臣の告示による東京都知事が定めていた額(以下「報酬規定」という。)によつて右売主、買主に対し各六四万五〇〇円の仲介手数料(報酬)債権を取得したが、原告は右手数料のうち、同年一月二八日に渡井から三二万二五〇〇円、シーサイド・パレスから三〇万円の支払いをうけたのみであるから、本件事業年度末において、渡井に対する三二万二五〇〇円、シーサイド・パレスに対する三四万五〇〇〇円をそれぞれ仲介手数料の未収入金として計上すべきであるのに、これを計上しなかつた。

(イ) 猪上百世に対する未収手数料四二万円および藤田典昭に対する未収手数料二五万円

原告の仲介により、売主猪上と買主藤田との間において昭和四一年四月四日、別紙物件目録記載のB土地建物を二八九四万四〇〇〇円で売却する旨の契約(以下「本件(イ)売買」という。)が成立したため、原告は、猪上に対しては「報酬規定」(ただし、一万円未満切捨て)により九二万円、藤田に対しては約定により五〇万円の各仲介手数料債権を取得したが、原告は、右手数料のうち、契約成立の際に猪上から五〇万円、その翌日に藤田から二五万円の各支払いを受けたのみであるから、本件事業年度末において猪上に対する四二万円、藤田に対する二五万円をそれぞれ仲介手数料の未収入金として計上すべきであるのに、これを計上しなかつた。

(ウ) 橋本寛司外三名に対する未収手数料 一四万円

原告の仲介により、売主橋本外三名と買主高山晴雄との間において、昭和四〇年一二月二二日別紙物件目録記載のC宅地、建物を三一五万円で売却する旨の契約(以下「本件(ウ)売買」という。)が成立したため、原告は、橋本外三名に対して、「報酬規定」(ただし、一万円未満切捨て)により一四万円の仲介手数料債権を取得したが、本件事業年度中にはその支払いを受けていないので、その年度末においてこれを仲介手数料の未収入金として計上すべきであるのに、これを計上しなかつた。

(2) 未払手数料(歩合給)認定損 四四万円

(ア) 北沢東洋男に対する未払手数料 二二万円

北沢は外交員として本件(イ)、(ウ)の各売買に関与したので、原告は同人に対し手数料として本件(イ)売買につき一五万円、本件(ウ)売買につき七万円を支払うべきものである。

(イ) 長谷川敏雄に対する未払手数料一五万円、白石孝に対する同二万円、および橋本栄三に対する同五万円

右長谷川らは、外交員として本件(イ)売買に関与したので、原告は、手数料として、長谷川に対し一五万円、白石に対し二万円、橋本に対し五万円を支払うべきものである(なお、右の各支払手数料の支払われた日時に関する後記の原告の主張事実は認める。)

(三) 仮に、前記の仲介手数料債権ないし、手数料債務が各売買契約の成立時に確定していなかつたとしても、本件事業年度中に確定したことは明らかである。

(四) したがつて、原告の本件事業年度分所得として、原告において争わないもののほかに、前記(二)の(1)の仲介手数料計上にもれ一四七万七五〇〇円から同(二)の(2)の未払手数料認定損四四万円を差し引いた一〇三万七五〇〇円の所得があるわけである。

2 国税通則法六五条一項によると、納税者は、申告と更正との差額税額について百分の五の割合を乗じて算出した金額に相当する過少申告加算税を課される旨定められているところ、原告の本件事業年度における法人税額は、確定申告では一一万九九〇〇円、本件更正では五一万六二七〇円であるから、過少申告加算税を一万九八〇〇円とする本件賦課決定は適法である。

四 抗弁に対する原告の認否および主張

1 抗弁1のうち、原告の仲介した本件(ア)ないし(ウ)の各売買の当事者、対象不動産、本件(ア)、(イ)売買の契約成立日、本件(イ)、(ウ)売買の代金、本件事業年度中の原告に対する本件(ア)ないし(ウ)売買に関する各仲介手数料の支払人、支払日、支払い金額、(二)の(2)の支払手数料の額および支払い先の各点についての被告の主張事実は認める(なお、支払手数料の支払日は、北沢、長谷川につき昭和四一年六月二七日であり、白石、橋本につき同月一〇日である。)が、その余の点は争う。

2 抗弁2につき、原告の正当な所得金額は一〇九万九五三三円であり、これに対する法人税額は一九万四六五〇円であるから、適法な更正による増加税額たる七万四七五〇円に百分の五の割合を乗じて算出した金額に相当する過少申告加算税は三七〇〇円というべく、これを超えてなされた本件賦課決定は違法である。

3 宅地建物取引業者の依頼者に対する義務の内容は、不動産取引の契約の締結にとどまらず、爾后の登記、引渡、代金決済等に関する役務も含まれるのであつて、仲介手数料の支払いは、売買等の契約締結時ではなく、登記、引渡等が終了した後に行なわれるのである。したがつて、被告主張のように、宅地建物取引業者の仲介手数料を売買契約の成立時において収益に計上すれば、右契約が後に解除されると所定手数料の全部または一部が減額されることになつたり、右手数料の額自体が売買契約成立時には明確には取決めがないという極めて不確実な未実現収益を計上することとなつて、企業会計原則上のいわゆる「保守主義の原則」に反する結果となるうえ、契約媒介の外交員に対する支払手数料等の費用は、原告会社においては、原告が依頼者から現実に受領した仲介手数料の額によつて確定する定めであるため、会計原則上のいわゆる「費用収益対応の原則」にももとる結果となるのである。それゆえ、このような宅地建物取引業の実態からすれば、仲介手数料については、いわゆる発生主義ないし権利確定主義によるよりもいわゆる現金主義によるのが相当である。

また、仲介手数料は、全役務の提供完了後にはじめて請求しうる点で、請負報酬に類似するものであるところ、請負報酬の収益計上時期については工事完成基準が採用されているのに、仲介手数料については仲介にかかる契約の成立時で収益に計上すべきものとして、本件のような更正をすることは、何らの合理的な理由なくして課税上の差別をすることに帰し、憲法一四条一項に違反する行政処分というべきである。

そして、本件においても本件(ア)ないし(ウ)の各売買の仲介については、右仲介受任の日から各売買契約成立の日までのいかなる段階においても、仲介手数料額についての約定がされておらず、いま売買契約が成立したからといつて報酬規定の最高限度額の報酬請求権が当然に発生し、もしくは確定するものとはいえないのであつて、右最高限度額の範囲内において契約成立に至る経緯、成立の難易等を考慮して約定しているのが実情である。

また、右仲介手数料収益に対応する費用としての支払手数料額は、契約成立時には全く未確定であつた。

4 国税通則法六五条所定の過少申告加算税は、形式上は税金であるが、その実質は制裁であり、一種の秩序罰であるから、同条二項の課税除外要件としての「正当な理由」とは何であるかを法律上明らかにせず、税務署長の裁量行為とすること自体制裁規定の構成要件は元来没価値的、客観的、記述的でなければならないとする近代法の原則に反し、憲法三一条ひいては同二九条にももとるものというべきである。

仮に、国税通則法六五条が有効であるとしても、原告が本件における仲介手数料を本件事業年度の収益に計上しなかつたことには、未収仲介手数料の収益認識時期いかんが、法律的にも会計学的にも困難な問題であること、原告が右手数料を翌期の収益に計上したことにより国家の財政収入に何ら損害を与えるおそれがないことに鑑み、充分な合理性があるのであつて、会計原則および法人税法に反しないと解したことに相当の理由があるから、被告の本件賦課決定は同二項の「正当な理由」の解釈を誤つたものとして違法というべきである。

五 原告の主張に対する被告の反論

1 原告の収益・損金の帰属時期に関する主張は、いずれも以下の理由により失当である。

(一) 原告は、会計原則上の「保守主義の原則」を引用し、未収収益については、これを益金に計上する必要がない旨の主張をしているが、保守主義の原則とは、企業の財政の基礎を健全にするために毎期の利益を実際よりも内輪に計上する目的で、期間損益計算上、収益は実現したものに限つて計上し、費用はできるだけ広く発生主義で計上しようとするものであつて、本件仲介手数料のごとく、収入すべき権利および金額が具体的に確定しているものまでも収益に計上しなくてもよいとするものではない。

(二) 原告は、「費用収益対応の原則」が尊重されるべき旨主張するが、これは権利義務の確定という基準の範囲内において把握されるべきであつて、現実の取引において収益、費用のいずれかがその事業年度内で確定しない場合には、同一事業年度内では費用と収益とが完全には対応しない結果となるのもやむをえないわけである。

(三) 原告は、仲介契約と請負契約とを比較して本件更正が憲法一四条に反する旨主張するが、両者における報酬請求権については、課税上いずれも権利が確定する時点で収益に計上しているのであつて、何ら異つた取扱いをしているものではない。

2 原告は、過少申告加算税に関する国税通則法六五条が「正当な理由」という不明確な要件により課税除外を規定しているのは違憲であり、そうでないとしても、原告の過少申告には「正当な理由」がある旨主張する。

しかし、大量回帰的な租税関係を処理する税務行政について、個々の具体的事情を予定して「正当な理由」の内容を規定することは不可能なので、法はその判断を、最も実情に明るく、かつ、課税権を有する税務署長に委ねたものであるから違憲ではない。また、収益帰属時期決定についての発生主義ないし権利確定主義は、判例および課税実務において一般的に承認されているところ、原告は過去においてもこの点について現金主義によるという同じ誤りを犯していたので、所轄税務署長が更正を行なうと共に、右誤りを指摘し、指導を行なつてきたという経緯があるうえ、原告の申告には税務計算に練達の公認会計士が関与していたことからみて、原告の本件過少申告には正当な理由があつたものとはいえない。

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因1、2の事実(本件処分および不服審査の経緯等)ならびに本件処分のうち、原告に本件事業年度分として一〇九万九五三三円の所得があつたとする部分は、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、右所得のほかに、原告に被告の主張する本件事業年度分の一〇三万七五〇〇円の所得があつたか否かについて、以下考察することとする。

1 法人税法上、課税の対象となる所得とは、当該事業年度の益金の額から同年度の損金の額を控除した金額とされ、右益金の額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引にかかる当該事業年度の収益の額である旨定められている(同法二二条一、二項)。そして、右の当該事業年度の収益および損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるべきものである。(同条四項参照。なお、同項は本件には適用されないが、その趣旨は本件においても同様に解するのが相当である。)。したがつて、法人の所得の算定にあたり、当該収益がどの事業年度におけるものであるかを決定するについても、公正妥当な会計処理の基準に従うべきものと解するのが相当である。ところで、近代企業にあつては、複雑な取引形態の下に多数の債権債務が同時に併存する実情にあるため、会計処理上、いわゆる現金主義によつてはとうてい客観的かつ正確な損益を把握することができないから、これによることは適当でなく、いわゆる権利確定主義ないし発生主義によるのが公正妥当な会計処理の基準に従う所以であつて、この理は原告のような宅地建物取引業者の収益、損金についても妥当するものということができる。

2 そこで、次に、原告のような宅地建物取引業者の仲介手数料ないし報酬(収益)および支払手数料(損金)がいかなる時点において確定するかについて検討する。

(一) 宅地建物取引業者は商人であるから、依頼者に対し報酬請求権を有する(商法五一二条)が、不動産取引の仲介は、民事契約の仲介ではあつても、これを商事仲立と区別すべき理由がないから、特別の事情のない限り、商事仲立に関する商法五五〇条一項を類推適用して、仲介が成功したとき、すなわち、当事者間の不動産取引の契約が有効に成立したときに、この報酬請求権が発生するものと解すべきである。そして、右報酬の額は、これについて約定があれば、宅地建物取引業法一七条に基づいて定められた報酬規定による最高報酬額の限度で約定に従うべきことは、いうまでもない。

したがつて、宅地建物取引業者の報酬請求権は、仲介にかかる契約が有効に成立し、かつ、報酬額が具体的に約定されて、これを行使しうる状態になつたとき、確定するものと解すべきである。

ところで、原告は、この点に関し、会計原則上の保守主義の原則を引用し、未収益についてはこれを益金に計上する必要がない旨主張する。なるほど、いわゆる保守主義ないし安全性の原則は、企業財政の安全をはかるために尊重されるべきであるが、課税所得の計算は、負担の適正、公平を期するために、権利確定主義の基準によるべきことは既述のとおりであつて、右保守主義の原則も、これによつて限定される範囲において認められるべきものと解するのが相当である。

また、原告は、仲介手数料請求権を仲介にかかる契約成立時において収益として計上すべきものとする課税処分は、請負報酬請求権を工事完成時に計上すれば足りるとする取扱いに比べて、課税上不当な差別をするものであつて、憲法一四条に反する旨主張するが、右両契約における取扱いは、いずれも権利確定主義によつて損益を計上すべきものとする点では何ら差別はなく、ただ仲介契約と請負契約との契約内容の相違に基づき事実上異なる結果となつているに過ぎないから、憲法一四条に反するものといえないことは明らかである。

そこで、本件について、原告の報酬ないし仲介手数料債権の事業年度帰属について、以下検討する。

(1) いずれも原本の存在および成立につき争いのない乙第一ないし第五号証、証人八木幹雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証、成立につき争いのない乙第一八号証の一、証人渡井萬の証言を総合すると(ただし、一部争いのない事実を含む。)、原告の仲介により本件(ア)売買は、昭和四一年一月二五日成立したが、その後同年二月六日までの間に、原告が売主渡井に対し、右売買に関し同人の支払うべき仲介手数料を総額六四万五〇〇〇円とする旨の申入れをし、渡井がこれを承諾することによつて仲介手数料額についての約定が成立し、渡井はこれを分割して、原告に対し同月七日および同年七月六日に各三二万二五〇〇円ずつ支払つたこと、また、買主シーサイド・パレスが原告に支払うべき仲介手数料については、右売買契約成立時から同年三月末までの間に、原告との間にその額を六〇万円とする旨の約定が成立し、シーサイド・パレスは、これを分割して原告に対し同年一月二八日および同年八月五日に各三〇万円ずつ支払つたことが認められ、仲介手数料額の決定時について右認定と符合しない原告会社代表者本人尋問の結果は、その趣旨自体必ずしも明確でないうえ、前掲各証拠に対比して採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、原告は、前掲乙第一七号証は証人回避の目的で作成されたものであるから証拠能力を欠く旨主張するが、同号証の証拠能力または証明力を否定すべき事情は何もない。)。

ところで、前掲乙第一号証によれば、本件(ア)売買の代金は一九五〇万円であつたことが認められ、成立につき争いのない乙第一六号証によると、報酬規定による報酬限度額(宅地建物取引業法一七条に基づき建設大臣が定めた宅地建物取引業者の受けることができる報酬の額であつて、本件については、昭和四〇年三月三一日現在において、改正前の宅地建物取引業法一七条一項に基づき東京都知事が定めていた報酬の最高限度額によるとされている)は、契約当事者の各々について取引額が四〇〇万円を超える場合には、取引額二〇〇万円までの部分について取引額の一〇〇分の五、取引額二〇〇万円を超え四〇〇万円までの部分について取引額の一〇〇分の四、取引額四〇〇万円を超える部分について取引額の一〇〇分の三であることが認められるから、本件(ア)売買についての一方の契約当事者の支払うべき仲介手数料の最高限度額は計算上六四万五〇〇〇円となるから、前記認定の原告と渡井またはシーサイド・パレス間の約定による仲介手数料額が、右最高限度額以内であることは明らかである。

右認定と異り、原告が本件(ア)売買の成立時にシーサイド・パレスに対して前記報酬規定による最高額の報酬請求権を取得したとする被告の主張は、失当といわざるをえない。

以上認定の事実関係からすれば、原告の渡井に対する仲介手数料債権は、本件事業年度中に支払いをうけた三二万二五〇〇円のみならず、六四万五〇〇〇円全額について、遅くともその金額の約定された昭和四一年二月六日までには確定し、また原告のシーサイド・パレスに対する仲介手数料債権も、本件事業年度中に支払いをうけた三〇万円のみならず、六〇万円全額について、遅くとも同年三月末日までに確定したものということができるから、原告は本件事業年度分の収益として、確定申告においてみずから計上したもののほかに、渡井に対する残額三二万二五〇〇円、シーサイド・パレスに対する残額三〇万円の各仲介手数料を未収入金として計上すべきこととなる。

(2) 原本の存在および成立につき争いのない乙第六号証の一、同号証および弁論の全趣旨により原本が存在し、かつ真正に成立したものと認められる乙第六号証の二、成立につき争のない乙第七ないし第一〇号証、証人八木幹雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第一九、第二〇号証および弁論の全趣旨を総合すると(ただし一部争いのない事実を含む。)、本件(イ)売買は、原告の仲介により昭和四一年四月四日成立したが、原告は右同日売主猪上との間に、仲介手数料額を九二万円とし、猪上において内金五〇万円を当日、残金四二万円を後日支払う旨約定し、猪上が五〇万円を右同日、残金を同年六月九日頃原告に対し支払つたこと、また、原告は右売買契約成立の日、買主藤田との間で、仲介手数料額を五〇万円とし、藤田において右手数料を分割して当日および登記完了時に半額ずつ原告に対し支払う旨約定し、藤田は原告に対し同年四月五日および同年六月九日に右約定の額を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない(なお、原告は、前掲乙第一九、第二〇号証が証人回避の目的で作成されたものであるから証拠能力を欠く旨主張するが、右各号証の証拠能力または証明力を否定すべき事情は何もない。)。

そして、右売買代金の額が二八九四万四〇〇〇円であることは当事者間に争いがないから、右認定の各手数料の額が、前記報酬規定による報酬の最高限度額以内であることは、計数上明らかである。

してみると、原告の猪上に対する仲介手数料債権は、本件事業年度内において支払いをうけた五〇万円のみならず、九二万円全額について右約定をした日に確定し、また、原告の藤田に対する仲介手数料債権も、本件事業年度内において支払いをうけた二五万円のみならず、五〇万円全額について同じく右約定の日に確定したものということができるから、原告は、本件事業年度分の収益として、猪上に対する残額四二万円、藤田に対する残額二五万円の各仲介手数料を未収入金として計上すべきこととなる。

(3) 原本の存在および成立につき争いのない乙第一一号証、成立につき争いのない乙第一二号証、第二五号証の一、二および弁論の全趣旨によれば(ただし、一部争いのない事実を含む。)、本件(ウ)売買は、原告の仲介により昭和四〇年一二月二二日成立したが、その際原告は、売主橋本らおよび買主高山との間において、仲介手数料額を報酬規定による報酬の最高額とし、右売主、買主が原告に対し、右契約成立の時および売買代金完済の時に各々半額ずつ支払う旨約定したが、橋本らが昭和四一年六月一日に至り一四万円を支払うにとどまつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(成立につき争いのない甲第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし七、乙第一三ないし第一五号証は、いずれも右認定を左右するに足る内容の文書ではない。)。

そして、本件(ウ)売買の代金が三一万円であつたことは当事者間に争いがなく、前記報酬規定による報酬の最高額によれば、原告は被告の主張するとおり、売主橋本らに対し計算上一四万円(ただし、一万円未満切捨て)の仲介手数料債権を右売買契約の成立時に取得し、右手数料債権は同時に確定したものということができる。

してみると、原告は右手数料の支払いが本件事業年度中にはされないとはいえ、同年度分の収益としてこれを仲介手数料の未収入金として計上すべきこととなる。

(4) したがつて、原告の本件事業年度分の収益として、前記の未収仲介手数料合計一四七万七五〇〇円を計上すべきものとした被告の主張は、仲介手数料額一四三万二五〇〇円の限度において理由があるというべきである。

(二) 次に、原告の未払手数料(歩合給)債務の事業年度帰属について検討する。

証人北沢東洋男、同長谷川敏雄の各証言、原告会社代表者本人尋問の結果を総合すると、原告会社においては、本件事業年度当時は、外交従業員が会社の不動産取引の仲介業務に従事したことにより、依頼者から原告会社に仲介手数料(報酬)が支払われた場合には、原告会社が当該外交員に対し歩合給(外交報酬)として右手数料の約三割ないし五割の金員を右支払いの日の属する月の末日に支給する旨定めていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて、このような歩合給債務は、依頼者から原告に対し、これに対応すべき仲介手数料が支払われたときに、具体的に確定するものということができる。

ところで、原告が本件(イ)売買の仲介についての支払手数料として、昭和四一年六月二七日に北沢東洋男および長谷川敏雄に対し各一五万円を、同月一〇日に白石孝に対し二万円、橋本栄三に対し五万円をそれぞれ支払つたことは当事者間に争いがないところ、原告が右売買の仲介手数料の残金として同月一〇日に猪上および藤田から合計六七万円の支払いを受けたことは前記認定のとおりであるから、右支払手数料債務は、右仲介手数料全額の支払いを受けた同月一〇日に確定したものということができる。

また、原告が本件(ウ)売買の仲介についての支払手数料として、同年六月二七日に北沢に対し七万円支給したことは当事者間に争いがないところ、原告が右売買の仲介手数料として同月一日に橋本らから一四万円の支払いを受けたことは前記認定のとおりであるから、右支払手数料債務も、右仲介手数料の支払いを受けた同月一日に確定したものということができる。

してみると、被告が、支払手数料債務が仲介手数料債権と同時に確定することを前提にして、右支払手数料債務を本件事業年度の損金として計上したことは失当というほかない。

ところで、原告は、原告会社においては、右のような外交従業員に対する支払手数料または歩合給などの費用は、原告が依頼者から現実に受領した仲介手数料によつて確定するため、権利確定主義による場合には、費用収益対応の原則に反する結果になるから、費用、収益ともに現金主義によるべきである旨主張する。しかし、費用収益対応の原則は、権利義務の確定により同一事業年度に帰属する収益および費用について、収益に対してそれを獲得するために要した費用を対応させて同年度の利益を決定することであつて、現実に収益ないし費用のいずれかが同一事業年度内に確定しない場合があるからといつて、権利確定主義によらず、現金主義によるべきであるということはできない。

(三) 以上により、一方では、原告の本件事業年度の収益として、被告の主張額より四万五〇〇〇円少ない未収の仲介手数料一四三万二五〇〇円を計上すべきことが明らかであるが、他方では、これに対応する原告の同年度の損金として、未払の歩合給四四万円を計上すべきであるとの被告の主張には理由がないことも明らかであるから、結局原告の右仲介手数料および未払歩合給の関係の差引所得は、被告主張の一〇三万七五〇〇円を下らないことになり、被告が右所得があることを前提にしてした本件更正には違法はないということができる。

三 次に、本件賦課決定の適否について検討する。

1 原告は、国税通則法六五条が、過少申告加算税という実質的な制裁について規定するにあたり、課税除外要件たる「正当な理由」の何であるかを規定上明らかにしていないのは、憲法三一条、ひいては同二九条に反する旨主張する。

なるほど、国税通則法六五条の過少申告加算税は、申告納税を怠つた者に対する制裁的意義を有することは否定できないが、刑事罰とはその性質を異にし、単に過少申告による納税義務違反の事業があれば、同条所定の「正当な理由」がない限り、その違反の納税者に対し課せられるものであり、これによつて、当初から正当に申告納税した者とこれを怠つた者との間に生ずる不公正を是正するとともに、過少申告による納税義務違反の発生を防止しようとする行政上の措置であるというべきであるから、原告主張のような厳格な罪刑法定主義の原則が適用されるべきものとは解せられない(なお、過少申告加算税の課税を除外すべき場合を、具体的、個別的に明らかにして規定することは、前記の行政目的に鑑み、立法技術上極めて困難といわざるをえない。)。したがつて、右法条は憲法三一条に違反するものではなく、まして前記のような趣旨に出た課税が同法二九条に違反するものでないことはいうまでもない。

2 さらに、原告は、本件における仲介手数料を本件事業年度の収益に計上しなかつたことには合理性があるから、これが本件更正前の税額の計算の基礎とされなかつたことについて正当な理由がある旨主張する。

しかし、過少申告が納税義務者の法律の誤解に基づく場合、このことのみをもつて過少申告についての正当の理由とすることはできない。また、証人岡利彦の証言によれば、原告の本件事業年度の法人税申告には公認会計士が関与しているうえ、原告は昭和三九年以前からその申告中の期間計算の誤りなどについて所轄税務署長の税務指導もうけていたことが窺われるから、原告の本件事業年度の確定申告において前記仲介手数料の収益を計上しなかつたことにつき、過少申告加算税を免れうるに足りる「正当な理由」があるということはできない。

四 以上判示の理由により、原告が本件(ア)ないし(ウ)売買についてその各仲介依頼者らから支払いをうけるべき未収の仲介手数料のうち一〇三万七五〇〇円を本件事業年度における所得に加えて、その所得の金額を二一三万七〇三三円と認定し、これに基づいてした被告の本件更正および本件賦課決定に違法はないことが明らかであるから、その取消しを求める原告の請求は、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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